顎関節症

顎関節症とは?

 顎関節症の代表的な症状は、「顎が痛む(顎関節痛)」、「口が開かない(開口障害)」、「あごを動かすと音がする(顎関節雑音)」の3つでこのうち1つ以上の症状があり、鑑別診断で他の疾患がない状態を「顎関節症」といいます。

 顎関節症の治療をしないでも治る場合もあれば、顎関節症の治療をしなかったために慢性化してしまう場合もあります。また、顎関節症が悪化した場合、口があがない・顎に痛みやしびれがある・噛むと痛い などの症状が起こり、日常生活にも支障をきたします。また、顎関節症が原因で肩こりや頭痛・食欲不振など、全身の症状も出てくる場合も少なくありません。

原因と病態

 原因は複雑でかみ合わせが悪かったり、歯ぎしりや歯をかみしめる癖、交通事故などの外傷、ストレスなど、さまざまな要因が重なって、強い力があごの関節にかかる場合に起こるといいます。また原因以外に症状を持続・悪化させる因子もあります。

 顎関節は手足の関節と同じような基本構造を持っています。顎関節は頭の骨(側頭骨)のくぼみ(下顎窩)に下あごの上先端の骨(下顎頭)が入り込む構造で、その間にクッションの役割をする関節円板という組織が挟み込まれています。

関節円板は下顎頭の外側と内側にしっかりと付着しています。しかし、前後方向の付着が緩いため、大きな力が持続的に顎関節に加わると、関節円板にズレ(転位)の生じることがあります。このズレの92%は前方で、8%が内外の側方、ごくまれに後方にも生じます。

また、閉口時に関節円板にズレがあっても、最大開口時にはこのズレが戻る場合と、戻らない場合とがあります。戻る場合には開口時と閉口時に「カックン」と関節音がします。戻らない場合には、急性期には「口が開けられない」、「口を開けると耳の前がとても痛い」などの症状がみられます。

口を開くときは、下顎が関節の凹み(下顎窩)から外れるように前に動くのですが、下顎の上に帽子のようにのっていて、クッションの役目を果たしている関節円板も連動して動きます。これが何らかの原因で前にズレたままになると、開閉口のたびに円板が引っかかったり、こすれて内張りのやわらかい組織(滑膜)の炎症を起こします。軽いものでは、咀嚼(そしゃく)筋の痛みや関節を包んでいる関節包、顎の動きを調整する靭帯の炎症だけのケースもありますが、顎関節症受診者の7割近くには関節円板のズレがみられます。関節円板のズレを簡単かつ明確に診断するにはMRI検査が必要となります。

一般的な治療

 多くは保存的治療で対処しますが、症状によっては外科的な治療を行う場合もにあります。 通常は、鎮痛薬の規則的な服用で関節内の炎症を鎮めるとともに、スプリントといわれるプラスチックの板を歯列全体にかぶせる保存的な治療が一般的です。スプリントは、噛みしめ時の顎関節の負担を軽くする治療法です。これで痛みが軽快しないときは、関節の中(関節腔内)に局所麻酔をして、徒手的にズレた関節円板を治したり、また炎症がひどいときは、点滴注射で関節の中を洗い、潤滑剤を注入することもあります。

上記の他、筋肉に対しての電気療法や自分の手で筋肉をマッサージしたり、温湿布で血行をよくするなどの理学療法も効果的です。また、円板が癒着して関節の中で動かなくなった場合、関節付近に小さな穴を開ける内視鏡手術を行うこともあります。

上記の治療は病院で行われますが、家庭での注意も必要になります。一番大切なことは顎関節に負担をかけないことです。うつぶせ寝、睡眠不足、フランスパン・ビーフジャーキー・イカなどの硬い食品や大きな食品を避ける、歯を噛みしめる癖、あごを後ろに引く動きが必要なフルートやサキソホンなどの管楽器の演奏、顎で楽器を挟むバイオリン演奏、格闘技やスキューバダイビングなどは控えます。直接、顎に負担のかからない生活を心がけます。